「AIは便利そうだけど、うちみたいな現場仕事の店舗ビジネスには関係ない」
飲食店や小売など、実店舗を運営する経営者ほど、そう感じているのではないでしょうか。
しかし実際には、ラーメン店を年商3億規模まで少人数で伸ばす「AI経営」が現実に回っています。
本記事では、デイトラの運営に関わりながら煮干しラーメン店「にぼし香」を経営する大滝昇平さんが、店舗ビジネスのどこにAIを差し込んでいるのかを、バックオフィス・データ分析・経営の本質という3つの切り口で解説します。
読み終えるころには、AIを「現場」ではなく「裏側」で効かせる発想が手に入ります。
・年商3億を少人数で回すラーメン店「にぼし香」のAI経営の全体像
・バックオフィス(法務・財務・労務・契約書・経理・マニュアル)をAIで下書きまで自動化する方法
・デジタル券売機と会計連携で売上をデータ化し、販促・SNS運用にAIを使う実例
・AIで時間を浮かせ、経営者が本来やるべき仕事に集中するという「経営の本質」
年商3億を少人数で回すラーメン店「にぼし香」とAI経営の全体像

今回のテーマは、デイトラの運営に関わる大滝昇平さんが手がける煮干しラーメン店「にぼし香」の裏側です。
「ラーメン屋さんにAIなんて使う場面がないのでは」という素朴な疑問からスタートします。
まず「にぼし香」の実績を簡単に押さえておきます。
創業は約2年半、前年の年末ごろに1号店をオープンし、そこから今では7店舗ほどに拡大。
年商規模で言うと、今年はおよそ3億円に届くペースで成長しています。
飲食店がこれほどのスピードでスケールしていくのは、かなり異例だと言えます。
ポイントは、その運営体制です。
本部運営に関わっているのは数名ですが、みんな他の仕事や現場も掛け持ちしているため、実質的には1人分程度の稼働で本部を回している状態です。
それで年商3億に届こうとしているわけです。
なぜ少人数で回せているのか。その理由のど真ん中にあるのがAI活用です。
店舗ビジネスの現場(接客や調理)そのものは人が担いますが、その裏側を運営する本部はAIで徹底的に自動化されています。
大滝さん自身、「業態が飲食店というだけで、中身はAIとマーケの会社」と表現するほどです。
この動画では、その使い方を「①バックオフィス」「②データ・販促・SNS運用」「③経営の本質」という3ステップで具体的に見ていきます。
なお、儲け話のノウハウを公開する回ではなく、あくまでAI活用の中身にフォーカスした内容です。
大滝昇平さんが運営する煮干しラーメンのブランドです。少人数の本部体制ながら、直営とフランチャイズを組み合わせて短期間で店舗数を伸ばしている点が、本記事のAI経営術の前提になります。
AI経営の実例①:バックオフィス(法務・財務・労務・経理)を下書きまで自動化

1つ目の活用例はバックオフィスです。
法務・財務・労務といった領域は、どうしても専門知識が必要になります。
通常は専門の担当者を雇ったり、顧問として外部のプロに入ってもらうのが一般的です。
専門領域は「下書きをAI・最終チェックだけ人間」に切り分ける
にぼし香では、これらの領域の下書きを全部AIに任せています。
専門家の稼働が100%にならないよう、AIで8割方できたものの最終チェックだけをプロにやってもらう体制です。
これによりコストを下げつつ、作業スピードも上げられています。
雇用契約書・フランチャイズ契約書の下書き
たとえば雇用契約書や、フランチャイズ展開に伴うフランチャイズ契約書などです。
「こういう項目を盛り込みたい」という要件をバーッと書き出したうえで、それをClaudeなどのAIで下書きにしてもらうという流れです。
最終的に問題がないかは、弁護士やフランチャイズのプロのアドバイザーに見てもらってチェックします。
AIを使って社内の書類を整理している飲食店自体がほとんど聞いたことがない、と大滝さんは言います。
だからこそ、業務効率の差を出しやすい業界だという指摘です。
飲食店に限らず店舗ビジネスであれば、多くの店がまだ手をつけられていないため、早く始めるほど勝ち目があります。
領収書・請求書はSlackに投げるだけ/OCRで仕訳の下書きまで
もう1つのバックオフィス活用が、請求書・領収書の処理です。
お店には取引先から領収書などが置いていかれることがあります。
これを処理するときは、店舗スタッフがSlackに「この領収書を処理しといて」と投げるだけです。
Slackの中に入れてあるAIエージェント(OpenClaw)が、その領収書やスクショ写真を自動で領収書フォルダに格納します。
そこから定期実行のスケジュールが走り、請求書・領収書を一括処理するタイミングになると、溜まった写真やPDFの中から次の情報を読み取ります。
- 振り込み先
- 会社名
- いつまでにいくら振り込む必要があるか
- 仕訳項目
これらをOCRで書類から読み取って処理し、人間の確認が必要な項目は分けつつ、自分で仕訳できた項目は仕訳まで進めます。
つまりデータ入力の下書きまでが全部終わっている状態になるわけです。
経理担当は、人間確認が必要な項目をチェックして問題がなければ承認するだけ。
会計ソフトのfreeeとMCPで接続しているため、承認すればその月の領収書・請求書データとして登録されます。
そのため経理はずっと張り付く必要がなく、月に1回のタイミングだけ、1日もかからずに終わるそうです。
OCRは、画像やPDFの書類から文字を読み取る技術です。MCPは、AIと外部ツールをつなぐ仕組みで、ここではAIとfreee(クラウド会計ソフト)を接続するために使われています。読み取りから会計ソフトへの登録までを1本の流れにできる点が、経理を月1回・1日以内に圧縮できる理由です。
マニュアル作成は音声入力アプリ(Aqua Voice)+Notion
店舗を運営していると、業務マニュアルを作らなければならないタイミングが来ます。
にぼし香では、その作り方にも工夫があります。
最近は音声入力のアプリが色々出ており、Aqua Voiceという音声アプリを活用しています。
たとえばラーメンの調理マニュアルを作りたいときは、店長クラスの人がAqua Voiceに作り方の手順をバーッと喋ります。
Aqua Voiceは喋った内容をある程度きれいに整形してくれるため、その下書きに対して「ここは調味料が何グラム」といった詳細を書き足していくだけでマニュアルが完成します。
書き起こされたマニュアルは、すべてNotionのメモに保存されていきます。
そのため、調理マニュアルや接客マニュアルなどがすでにNotionの中に蓄積されている状態です。
実際にフランチャイズを始める際、アドバイザーに「今どのくらいマニュアルがありますか」と聞かれてNotionのページを見せたところ、「ほぼ出来上がってるじゃないですか」と言われたほどだそうです。
【余談】直営を抜いたフランチャイズ展開
にぼし香はフランチャイズでも店舗展開をしています。
今は直営が3店舗で、今年に入ってフランチャイズが増え、ついにフランチャイズが直営を上回りました。
フランチャイズの詳細ページは動画の概要欄に掲載されており、初期投資は2年ほどで回収できるモデル、年利はおおよそ500〜600万円程度とのことです。
AI経営の実例②:データ・販促・SNS運用をAIで回す

2つ目は、売上データと販促・SNS運用の活用です。
売上集計はデジタル券売機とスマレジで「勝手にデータ化」
多くの店舗では、レジから出るレシートを毎日ノートに貼り、月末に1枚ずつめくって電卓で合計を出す、といった集計をしています。
これは非常に手間がかかる作業です。
にぼし香では、そこを最初から潰しています。
スマレジや、インターネットにつながって自動で売上を集計できるデジタル券売機を導入しているのです。
現金も使えますが、デジタル券売機を通すため、現金でいくら使われたかもデータとして残ります。
この結果、売上は最初からデータとして存在し、毎日集計できる状態になります。
売上データはfreeeに自動連携されるため、特に何もしなくても、月末が終わればその月の売上が勝手に入っている状態になります。
「何が売れているか」が分かればマーケデータになる
デジタル券売機でデータ化しておくと、どの商品がどれだけ売れているかも分かります。
売れ筋商品はもちろん、週替わりの限定メニューがヒットしているか・不発だったかも把握できます。
反応が悪ければ次は出さない、次の商品開発に活かす、といった判断に使えます。
さらに、「何曜日の昼は弱い」「土日の夜は意外と強い」といった曜日・時間帯ごとの傾向も見えてきます。
まず、レジがネットにつながっていない店は、そこから始めるべきだという指摘です。
そうでないと、そもそもAIを活用しようにもできません。
AI活用は「AIがすごい」のではなく、AIが読み込む前提となるデータがあって初めてすごいものになります。まずはデータを集めること。これはいわゆるナレッジマネジメントの考え方です。
販促・SNSはデザイナー×AI/ただし料理写真にAIはNG
販促とSNS運用では、本部が業務委託しているデザイナーがAIをゴリゴリ使っています。
季節の限定メニューや新店オープンの告知ポップ・ポスターなどは、基本的にまずAIを使って作る体制です。
具体的なツールとしては、最近はChatGPTが最も使われており、GPT image 2.0のクオリティが高いため画像生成に活用することが多いそうです。
ただし、1つ重要な注意点があります。
料理の写真にAIを使うのはダメだということです。
AIで生成した画像は本物と微妙に違い、実際のラーメンには乗っていない具材が乗ってしまうことがあります。
本物ではないもので販促をした結果、実物と違うというクレームにつながったり、優良誤認という景品表示法違反になる可能性もあります。
そのため、料理についてはAIで構図の参考を作るにとどめます。
AIに何パターンも画像を作らせ、それを参考にデザイナーが仕上げる、という使い方です。
「何でもかんでもAIにやらせる」のではなく、AIに任せる部分と人間がやる部分を言語化して切り分けることが大切だという考え方です。
AIも道具の一種であり、どのシーンで使うかを考えながら使う必要があります。
数字の定点観測をAIに任せて定例MTGを高速化
データ分析系で最も効いているのが、AIに毎週いろいろな数字を追わせることです。
たとえば次のような指標を、AIが定点観測しています。
- SNSのフォロワー数の伸び率
- エゴサして見つけた投稿のポジティブ・ネガティブ分析
- 公式サイトのアクセス数
- Google マップへの口コミの増加数
SNSの伸びや自分の評価といった数字を集めてマーケに活かすことは、普通の飲食店はそもそもやっていません。
これを人手でガチでやろうとすると、スタッフの1〜2日が潰れる作業です。
それをAIが自動でやってくれている点が強みになっています。
にぼし香では毎週月曜日に定例ミーティングを行っており、定例の前にこれらの数字を集め、なぜその数字が増減したのかという分析までAIにやってもらった上で会議に入ります。
そのため、数字を今後のアクションにどうつなげるかを洗い出すまでが非常にスムーズです。
定点観測は、同じ指標を定期的に同じ方法で計測し、変化を追うことです。エゴサ(エゴサーチ)は、自社やブランド名でSNS検索して評判を確認する行為を指します。人手だと continuous に追い続けるのが大変な作業を、AIに任せて毎週自動化しているのがポイントです。
AI経営の実例③:経営の本質は「浮いた時間で何をやるか」

最後は、AI経営の本質についてです。
にぼし香では、プロダクト(美味しいラーメン)が良いことを前提としつつ、クリエイティブやバックオフィス業務を全部AIで回しています。
これを続けると何ができるかというと、時間が浮きます。
浮いた時間は、本来やるべき仕事に振り向けられます。
- 店舗やブランドのコンセプト設計
- より良いサービスを提供するための新規施策の立案
- サービスや顧客対応をより良くするための時間
人数が少ないにもかかわらず時間が余り、その人たちがプロダクトを良くすることに全集中できているわけです。
スタッフが「今週の領収書を出さなきゃ」といった作業に何時間も取られることがないからこそ、自分たちの専門領域に集中でき、良い結果が生まれています。
AI活用というとコスト削減に目が向きがちですが、それは当然の効果にすぎません。浮いたコスト・リソースで何をやらせるかのほうがさらに重要で、会社を伸ばすことにリソースを使う意思決定こそが経営の本質だと言えます。
まだ効率化したい領域:問い合わせAIと立地選び
大滝さんは、まだまだ効率化したい部分もあると言います。
1つは問い合わせ対応です。
店舗やフランチャイズへの問い合わせは、今はまだ丁寧に人手で対応しています。
ただ、同じようなことを聞かれることも多いため、社内のナレッジデータベースを元にAIで一次回答するようにしていきたい、とのことです。
待たなくてもすぐ答えが返ってくるのは、それ自体が新しい顧客体験になります。
もう1つは立地選びです。
店舗ビジネスは出店場所選びが非常に重要で、どこに出店するかで勝負の7〜8割が決まるほどです。
そこは今のところ、どうしても職人的な経験に頼る部分が残っています。
データ上は良さそうな立地でも、現地に行って観察すると「ここはやばいかも」と分かることがあり、行ってみないと分からないのが実情です。
これをうまくAIに落とし込めれば、職人技でしかできなかった立地選びをAIで再現できるかもしれないと考えています。
現在の7店舗分の実績や、「視察に行ったが選ばなかった」というデータが溜まっていけば、それが可能になる——それが次のステップだそうです。
AI経営に関するよくある質問
Q. 現場仕事の飲食店でも、本当にAIは活用できますか?
できます。にぼし香の事例では、接客や調理といった現場そのものではなく、法務・財務・労務・経理・マニュアル作成・データ分析・販促といった「裏側(バックオフィスとマーケ)」にAIを差し込んでいます。現場ではなく裏側を自動化するのがポイントです。
Q. まず何から始めればいいですか?
「データを集めること」からです。動画でも、AIがすごいのではなく、AIが読み込むデータがあって初めて効く、と語られています。具体的には、レジをインターネットにつなぎ、売上を最初からデータ化しておくことが第一歩になります。
Q. 料理や商品の写真もAIで作っていいですか?
おすすめしません。AI生成画像は実物と微妙に異なり、実際には乗っていない具材が写るなど、クレームや優良誤認(景品表示法違反)につながる恐れがあります。にぼし香では料理写真はAIで構図の参考だけを作り、仕上げは人間(デザイナー)が担当しています。
Q. 経理はAIに任せると人がいらなくなりますか?
ゼロにはなりませんが、大幅に圧縮できます。にぼし香ではSlackへの投稿→AIエージェントによる格納→OCRでの読み取りと仕訳下書き→freeeへの登録までを自動化し、経理担当は月1回の承認作業のみ、1日もかからずに終わる体制にしています。
Q. どんなAIツールを使えばいいですか?
動画で挙げられていたのは、契約書などの下書きにClaude、画像・ポスター生成にChatGPT(GPT image 2.0)、音声からのマニュアル作成にAqua Voice、蓄積先にNotion、会計にfreee(MCP連携)、売上データ化にスマレジ・デジタル券売機、などです。まずは自社の「裏側」のどの作業をデータ化・自動化できるかを言語化することから始めるとよいでしょう。
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本記事で紹介した「にぼし香」のAI経営術は、特別な現場ではなく、バックオフィスやデータ・販促といったどんな事業にも共通する裏側をAIで自動化した結果です。
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大滝昇平(@showheyohtaki)
デイトラの運営に関わりながら、煮干しラーメンのブランド「にぼし香」も経営しています。創業から5年で約10億円規模の事業を上場企業へM&Aし、少人数で高利益を出す事業づくりを得意としています。自身のWeb・AI活用のノウハウを、中小企業の経営者向けに発信しています。